2011年8月24日水曜日

ウーマッドフェスティバルの経験


休む間もなくフィンに呼び出された。後、一日は休めると思っていたがブリストルに帰って次の日からウーマッドフェスティバルの準備に必要だと呼ばれた。電車で途中まで向かいジョンに車で迎えに来てもらった。途中夕食の買い物のため小さな町に立ち寄った。イギリスの地方はとても古風で落ち着きがある。建物をそのまま残し伝統的な雰囲気を壊すまいと地域の人たちが力をいれているからだ。夕日を前に紅く染まる、どことも名の判らない小さな通りは、時代を超えてそこに存在し、自分が誰なのかを問いて来た。答えを知る事もできない自分に価値観を失わないように目的を持ち、その先へと旅路を進める旅人の絵を自分の中に描いた一瞬だった。
開催地に着くとフィン、ジョー、ラフがすでにカフェのマーキーを建て終えていてほっとした。労働作業は今の俺にはきつかった。夕食を終え、明日に備え早めに寝る事にした。

早朝から忙しい日々が始まった。俺の仕事はアート部門、好きな仕事だから楽しかった。皆がキッチンの整備をしている間、看板四つの絵や、フォントの修正、そしてカフェのフロントカバー。約、縦1.3メートル、横6メートルの大きなベニヤ板。フィンは、なにか描いてくれと題材はほぼ自由。ただし、制限時間は一日間。慌てながらもデザインを考慮、残されたペイントをどう使うかなどで悩みながら、夜中10時頃、全てを終えた。傑作とは言いがたいが皆満足してくれてほっとした。ヴォッカを少し嗜み忙しかった日は日暮れとともに過ぎていった。

目標売り上げはピザ200皿。今までのマイナスをプラスにするには今日それだけの売り上げをしなければならない。明日、明後日の金土曜は400から500を売り上げてプラスになるかならないか。ビジネスとは大変なものだ。全ての材料の計算から、一食分への配当を決める。今回はメインステージの真っ正面、勝算はある。問題は仲間が仕事をやりこなせるかにかかっていた。出勤時間の二時間前から仕事を楽にするため、俺とラフ、ジョンで準備にかかる。空腹と好奇心でお客が外をウロウロしだした。ピザはいつ始まるのかと聞かれだした。開店の一時までまだ二時間。万全を期して準備を整える。俺はピザ全ての責任を任されていたので責任は重大。間違いのないよう、売り切れや、売り残りのでないよう、皆を指導する。ピザの薪オーブンの温度が350度を超えた。予想以上の客の引きで開店時間を15分早める。悪くない始まりだ。軽やかなドラム&ベースのサウンドの中、回りくる注文の数にリズムを刻み、皆で踊りながらピザを作り回した。時間はあっという間に過ぎていく、ピザは止まる事なく、オーブンへ運び込まれ、香ばしい香りとともに流れ作業のもと外へ出て行く。日はいつの間にか西の空に傾き、空腹とともに時間が過ぎていった事に気づく。フィンが売り上げの数を数えて来た。それは目標の約二倍、400近くピザを売り上げた。フィンも皆も大喜び、早めに店を閉めて、皆で飲みに出かけた。フィンが皆にビールをおごり、明け方近くまで祝福は続いた。

翌日は皆二日酔いで苦しそうだった。ゆったりと朝食にかぶりつき、目を覚ます。硬くなった体を精一杯伸ばして、体を馴染ます。テンポのいい音楽をかけ、気合いを吹き込む。今日と明日は昨日の倍、忙しくなくてはならない。予定より一時間も遅れて開店したカフェタンゴは、行列によって迎えられた。何時間続いただろうか、トイレに行く暇もなく、一服する事も、ため息もつけない。ふとラフを見ると同じように手を動かす様が、まるでロボットのように見えて笑えた。音楽はアップテンポをかけっぱなし、足腰が痛い。気がつくと日は傾き、仕事中でも酒をあおりだした。ヴォッカの力を借り、夕食に並ぶ行列との格闘。売り上げは既に目標を超えていたが、止まる事を知らないお客は次から次へと。皆は疲労から笑いが、フィンは収入から笑みが。流れる音楽も止まる事を知らずさらに速くベース音を響かせるようになる。酔いが皆に回りだした。キッチンの中はもうパーティー状態とかして来て、皆暴れだして来た。驚喜の中、確実にピザは売れていく。客もこれだけハッピーなキッチンを見た事があるだろうか。ピザが空を舞う。音楽が生み出した驚喜にかられてカフェタンゴは揺れていた。今までいろんなキッチンで働いたがここまで弾けた場所はここをおいて他ならない。楽しかった。売り上げは期待の二倍、700枚以上ピザが飛んだ事になる。一分一皿近く売り上げた計算になる。よくやったと少し感動。疲れきった体は倒れ込み、ラフとジョーに運んでもらい床に着いた。

最終日、疲労も最高潮。眠気が波のように押し押せてくる。晴天に恵まれたおかげか回復は早く、音楽とともにまた体は動き出す。そしてまた行列の嵐。仕事内容は同じように流れていったが、皆の手伝いもあり日曜は少し楽になった。10時ぐらいだろうか働きどうしだったのでフェスティバル自体を楽しむためカフェをほったらかしにして遊びにでた。コンサートを見に行ったり、辺りを見て回った。ジョーとラフ、マーラとでアトラクションの場所にも行った。まるで子供にでも戻ったように皆ではしゃぎ、回るブランコや、上下に回転しながら動く乗り物に乗って遊んだ。大人になってからでもこういったものは楽しいものだ。子供のようにはしゃいだ夜は、まるで子供のように床につき、夢の中へと意識を深い眠りの中へと連れてってくれた。

同じようにゆっくりと目覚めた朝は、汗だくになり、自分がどこにいるのだろうかと疑問に溺れる。テントから這い出てゆくと眩しい太陽が現実を照らしていた。かたずけを朝食とともにだらだらと体を働かす。五時間かけてカフェタンゴは跡形もなく消えていった。夕方ブリストルにジョンと戻り、パブで皆と合流。一二杯、飲んでインドカレーをテイクアウェイ。辛かった。

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