2011年7月20日水曜日

グラスティングバリー フェスティバルの経験


グラストンバリー

早朝から慌ただしく荷物をまとめ、眠い頭にコーヒーを流し込む。小さな車に入るだけの荷物を押し込み、グラスティングバリーへと向かいだす。軽い音楽をかけ流し、高速へ向かう空は薄暗い雲に囲まれ雨を予報してくれる。早速か、といわんばかりかイギリスの天候には悩まされる。降り注ぐ雨は、走り行くタイヤのしぶきと共に深く、強くなっていった。幸い、目的地に着いたときは小降りになり薄らと明かりが空から溢れた。グラスティングバリーフェスティバルは農家の広大なファームで行われる。雨上がりの傾く太陽に照らされた緑色に輝くその大地は美しく、そこ全体がフェスティバルと化すとは信じがたかった。
カフェのオーナー、フィンと軽く挨拶をし、ジョンから借りたテントを張ることに。開けてみて驚くのがそのサイズだ。聞いてはいたが、中に入るとより小さく感じる。133Cm x188cm、のエアベットが少しのすき間を残しぴったり。体を斜めにしてぎりぎり荷物と寝るスペースを確保。かなり甘く見ていた。それでも最大の失態は地面、聞いていた通り地面は泥だらけ、しかしここの泥はさらに特別に重い。まさに沼と化した漆黒の地面に足は取られ、濡れた足の指先に寒さがしみ込む。さすがに長靴を買いに次の日向かった。五日後にはフェスティバルが始まる。次の日からその準備と、仲間との交流に日々を楽しんだ。

グリーンピースのクルー100人から150人をまかなう仕事は楽しかった。毎日冷蔵庫を開け次の日の晩飯を考案、創作に、計算。無駄の出ないよう、労働者を満足させるよう、作らなければならないのだが、肉は一切なし。工夫を重ね、たくさんの人から満足の言葉をかけてもらって料理の自身と、料理人としての満足を憶えた。毎晩、大きなたき火を囲みギターを弾いたり、話をしたりして時間を過ごした。一度あったバーベキューには感動、肉という食材がどれだけ尊いか感じた瞬間だった。

インドで出会ったデインとリサにここでまた会うことになり、お互い驚いた。またインドでクライミングを共にしたマイクがセキュリティーをしていたことにも笑いがでた。世の中広かったり狭かったりするものだ。

俺らのレストランは カフェタンゴ、そのクルーは他ならず楽しい連中、フィン、ラフ、ジョー、ジョン、テリー、オウエン、ベン、アメリア、エミリー、デイジー、ハナ、によって構成され活気のあるチームだった。毎日音楽をかけながら、踊りながら料理をする。日が暮れれば飲みながらかたずけをする。フェスティバル用のマーキーを張り、キッチンを作り上げる。広告用のメニューのデザインと看板を任され、二日間ペインティングに費やした。大きなキャンバスは初めてで楽しかった。ハナ、サラ、マラ、エマ、ルイサとベンの手助けにより楽しいペインティングだったが名前に困った。

ある晴れた日、暇が空いた時間に開催地を歩いて回ったが、その広さに驚いた。なんでも土日には世界で9番目に人口密度の高い街になるとさ。毎日、その街は拡大していき、建設の速さに圧倒された。シャングリラと呼ばれる場所には、宇宙船や鉄でできた、でっかい顔、飛行機、吊るされた車、などなどいろんなものが並んでいた。グリーンフィールドと呼ばれる場所ではストーンヘンジがありたき火がともされ、24時間たくさんの人たちが戯れていた。

記憶が風船の中に詰まり飛んでゆく中、開会式をあげる如く、ストーンヘンジフィールドで花火が上がった。何千という瞳は一点に集中し、光り輝く空に何を見たのだろうか。瞬く間に始まった爆発は光と音の速さに別れ、頬に伝わってくる。静寂。会話が途切れたせいだろう。騒がしかった群衆がのめり込む美しさは時に音もなく脳裏に焼き付く。どのくらいたっただろう、穴の開いた長靴に冷たい泥を感じ、指先にできた水ぶくれの痛みとともに、沼にはまった重い足を前へと、バーに飲みに行く。暗闇の中声を掛け合い、パーティーを求め彷徨う俺らの姿は滑稽だったろうか。この街では、セキュリティーが酔ってない者を通報する。真剣な顔をしている者は怪しく犯しい。そうやってグラスティングバリーの初日は始まった。

翌朝、日に照らされたテントの蒸し暑さと、泥だらけのベットの感触、五日目の狭い空間の異臭に目が覚めた。心地よいシャワーを浴びカフェに向かう。一般人がフェスティバルに入って来た。次の日には二十万人近くなるそうだ。陽気な群衆の中グリーンピースフィールドは準備が間に合わずまだ閉ざされたままだったが、次の日の支度に追われ俺は忙しくまな板にリズムを合わせていた。100人分の準備とさらに100人分の用意を終えるとヴォッカオレンジに手を出し気分を休める。日が暮れると皆でバーに行き、騒々しい音楽と賑やかな群衆の中、酔いしれる自分を堪能し一日が過ぎていった。

金曜日

更なる数の人がこの街と呼べるフェスティバルに参加して来て、いよいよ賑やかになって来た。グリーンピースフィールドもオープンし溢れる人だかりに並べられた数々のアートやイベントが満喫されていた。濡れた地面は足踏みされるたびに深く、粘り強くなっていく。時に人は埋まりいく地面に足を取られ、抜け出せずに助けを求めることも。数々の長靴が前の晩にその泥沼に吸い込まれ、次の日の朝、日光とともに泥沼から顔を出していた光景はかなり独特な景色だった。夜は向いのカフェで働いていたベッキーとともにヴォッカを片手にいろんなイベントを見て回り、足の埋まる泥沼の中踊り明かした。

土曜日

いよいよフェスティバルも最高潮に達し、ミュージシャンのラインアップも盛大になってきた。日曜だったかもしれないが、暇ので来た昼にザ ゴー チームを見に行き感動した。日の沈む頃皆でケミカルブラザーズを見に行ったがトイレに行っている途中仲間とはぐれ、デイジーと二人で見物。人だかりのせいでかなり離れた場所から見ていたが、巨大なネオンライトのスクリーンは俺らを音の世界へと連れて行ってくれた。その後一緒にアーケイディアという広場に向かうことになり荒れ狂う泥沼の中先へ進むと交通規制ができていた。なんでも規制人数以上を広場に入れたくないらしい。デイジーは気にせず近くのフェンスを飛び抜けた。一瞬、呆気に取られたがもちろん俺も気にせずフェンスをジャンプ。一つ林を抜けると巨大な鉄の塊が火を噴いていた。熱が露出された肌の一部に熱く広がる。そして音楽。ステージは群衆の真ん中をぐるぐると回り、DJが重いベース音の羅列をまるでオーディエンスを操るがのごとく飛ばしていた。ステージの上に登り、疲れきった足にエクスタシーが走り、二人で空が明るくなるまで踊り通した。

日曜日

今までで最高の晴天を迎えた最終日は、その輝かしい青空とともに終局を演じ始めた。登り詰めた雲隠れの山頂に、新たな一角を発見した登山家の疲労と喜び。ほぼ一週間以上ろくな睡眠も取らず飛び明かした驚喜は限界を超え疲労さえ感じさせた。だがここで終わるのはイギリスではない。日曜がメインらしい。日中、暇を見つけ日のあたる丘に登り昼寝をし夜に備えた。カフェは10時に閉め、皆集まりだした。共にアーケイディアに向かう。深夜12時近くに辿り着いたそのステージで俺が目にしたのは壮大なサーカス劇と炎に包まれたダンサー。白いドレスに身を纏い、響き渡るベース音を切り裂くように鮮烈する美しいヴァイオリンの音色。凍えていた肌に焼き付ける灼熱の砲火劇。新たな夜を告げるにはあまりにも壮大で、美しかった。乱れる群衆をかき分け見つけた場所にはグリーンピースとカフェのほとんどのメンバーが顔を揃えていた。地面はよく乾き、感覚のない足腰にうまくリズムを踊らせた。音色は輝く一方、感覚は底をつき旋律だけが頭を突抜ける。言葉のない会話に笑顔を向け、永遠と感じられる壮観は永延と透き通る。まさに最終劇に相応しいショーだった。はっきりとして来た景色に気づけば空は明るく、大勢だった大衆は溢れ帰るゴミとすり替わり、まるで狐にでも化かされたような朝もやに包まれて自分に気づく。カフェの仲間はまだ回りにいて、朝日を見に行こうと話をした。何人かは朝日を迎えに丘に登り俺は疲れきった体を小さなテントに埋づめた。

月曜日

蒸しかえる灼熱のテントの中で異臭と嫌気に目を覚ます。心地よいシャワーを浴びると爽快な日差しが歓喜と驚喜を思い出させてくれて腕を空に伸ばした。目くらいが少し、足腰の痺れがずっしり、唐突に筋肉が起きるのには時間がかかることを教えてくれる。乱用されきった胃に朝飯をティーと一緒に流し込む。たくさんの人たちが出口に向かってバックパックを引きずって向かって行く中、ティーを片手に眺めていた。記憶が頭の中を過る。笑いがでてくる。人生で初めてフェスティバルというものを経験したが、これほどまでとは想像もつかなかった。まだまだ好奇心は旺盛。次に行くのもが楽しみだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿